洗練と素朴

山本忠臣 - ギャラリーやまほん

素材/土(原土の塊と精製された粘土の粒子)

陶磁器の素材となる多くの市販粘土は、原土を精製して作られます。山から掘られてきた原土は、乾燥、水簸(すいひ)などの工程を得て、轆轤(ろくろ)挽きなどの成形方法に適するように、また焼成時の収縮や割れを少なくするために精製が行われます。そうすることにより、テーブルに傷がつかないなど実用に即したきめ細やかな陶器となる一方で、素材のもつ野趣や素朴さは失われます。

素材/手漉き和紙(黒谷和紙と美濃和紙)

800年の伝統をもつ黒谷和紙は、番傘などにも使われた素朴な味わいをもちます(ハタノワタル製作)。一方、正倉院に保管されている日本最古の紙としても知られ、1300年の歴史をもつ本美濃紙。書院紙とも呼ばれる真っ白な障子紙で、透き通る美しさをもちます。洋紙と異なり、日に当たることでより白くなります。

古唐津陶片

窯で焼成される際の変形や割れにより商品にならなかった陶器の欠片。見たとおりのガラクタですが、古陶磁好きな人には鑑賞の対象ともなります。私の場合は古陶磁の研究対象ではなく、想像する楽しみとして眺めています。雑器として職人が素早く作ったものですので、高台も豪快にひと削り。そうしてできた高台の土のテクスチャー(ちりめん)も見所となり、生き生きした動きに素朴さが伝わります。

茶盌

洗練と素朴という言葉がそのまま日本の工芸といえるように思えます。現在、国内外において多くの人々が日本の工芸を求めるその根元には、洗練と素朴という、一見、相反する状態を併せもち、人々の心に「然」という問いをもちかけるからではないでしょうか。作家の個性と時間という洗練を超えて人々の心の深いところへ問いかけます。

木彫「閑かな森」 望月通陽

タイトルどおり、静かな森を連想させられます。望月通陽は染色作品を中心に、版画、ガラス絵などの平面作品、ブロンズ、鉄などの立体作品も手がけます。造形を洗練することで素材の素朴さを引き出したこの作品からは、木や森、自然の深い呼吸が、人間の呼吸と同じリズムと教えてくれるようです。


山本忠臣 - ギャラリスト・建築家

1974年 三重県伊賀市生まれ。2000年伊賀市に工芸作家の発表の場として「gallery yamahon」を開廊する。
2011年には若手工芸家の発表場として京都に「うつわ京都やまほん」を開廊する。
物と時間の関係性を考え、商業施設や住宅などの建築設計を行う「やまほん設計室」を主催する。