洗練と素朴

猿山修 - さる山

弥生土器

まだ高温で焼き締める術のなかった頃。技術的には素朴ながら、造形の美しさ、細工の妙は、非常に洗練されていて、現代の焼きものに通ずる要素がすでにある。対比することで両極の良さが一層際立って見え、また一体の魅力として見えてくるから不思議である。

19世紀末ハンガリーの変形緑釉タイル

焼きものの作りとしては素朴だが、色の美しい深皿かと思い手に取ると、暖炉の周りを囲うためのタイルであった。用途を知らないで見ると、現代的にも奇異なものにも見えてくる。視点を変える、見立てによって洗練を見出だすことには終わりがない。

尺八

江戸期の虚無僧の尺八の資料を元に古い煤竹で製作。熱した細い鉄棒を用い、穴の大きさや位置を調整した簡単な作りの楽器。趣味として自らの手を動かし作り出すことは、素朴な楽しみ。反対に、素朴な楽器から奏でられる音、その世界は洗練の極みである。

オレクトロニカの木彫

小さな木片から掘り出された、刃物のあとが残る素朴な「ひとがた」の彫刻。少し猫背の静かで高圧的でない佇まい。しばらく眺めていると、そのひとのサイズに自分がなってしまったような錯覚に陥る。観る者をトリップさせる仕方は洗練されたアートそのもの。

紙製モビール

極端に重量感をおさえるため、紙の薄さ、ピアノ線の細さを考慮し、接着は糊だけ。最も風の影響を受けやすい形、動きの予想がつかないくらいの軽さをあみ出した。素朴な材料と技術だけでも、何度も繰り返し調整することで洗練につながる。


猿山修 - デザイナー

1966年生まれ。麻布にて、ギュメレイアウトスタジオ/古陶磁を含むテーブルウェア等を扱う「さる山」を主宰。
グラフィック、プロダクト、及び空間デザインを広く手掛ける。各地の窯元等にデザインを提供する一方、
陶工、金工等の作家との共作も多数。演劇、映像及び展覧会のための作曲・演奏活動も行う。