この部品箱には縁がありました。もとはといえば10年ほど前、自分がある古道具店で購入。その後、茅場町の店舗で手放し、あったことすら忘れていたのですが、先日、別の古道具店で再び自分の前に出現。箱の佇まいだけでなく、このようなものとのご縁にも、飾り気がないという意味で素朴さを感じます。
規格に達しなく捨てられてしまった多治見のタイル。ある日の骨董市で自分の前に回り回ってきました。拾った人も、素朴な景色が表面に漂っていると思ったということ。昭和の中頃のもの。
Kaweco社の筆記用具と、DOVO社の鋏。洗練されたプロダクトデザインが、文字を書く、紙を切る、という、どこか素朴な行為を支えます。ネットで簡単に入手できるのが良い点。使うことに喜びがあるのがさらに良い点。
メジャーとルーペ、携帯コップ。古ぼけた丸いかたちはどれも素朴ですが、それが始まりもなければ終わりもない線だと思うと、どこか洗練された思考の表象のようにも感じられます。
山本昌男さんの写真を見ていると、写真に現れた山本昌男さんの美意識の世界に入り込みたいという気持ちが芽生えます。あるいは、ままならぬ世の中にあって、ここだけは洗練された空間が立ち上がってきます。
森岡督行
1974年生まれ。株式会社森岡書店代表。
著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『本と店主』(誠文堂新光社)等がある。
『工芸青花』、『芸術新潮』を始めとする媒体にて連載・執筆を行っている。
現在、21_21 DESIGN SIGHTにて開催されている「雑貨展」にブースを出展中。
株式会社森岡書店の取り組みとビジュアル・デザインが、ドイツのiFデザイン賞とイギリスのD&AD賞を受賞した。
『工芸青花』編集委員。
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