工芸のウチ.ソト

菅野康晴 - 工芸青花

ソト 手紙 坂田和實筆 1999年

1999年から2003年まで坂田和實さん(1945年生れ。「古道具坂田」主人)の連載を担当し、そのあと本にまとめました。坂田さんのあつかう品物の多くは「かつて道具だったもの」であり、じつはもう「つかえない/つかわない道具」です。
※以下すべて古道具坂田より

ウチ 絞り布 昭和時代

道具としての用をなさない物体に、坂田さんはあらたに「美」という価値を附与します。そして、その美は日用の、どちらかといえばありふれた道具だったことに由来する、と説きました。やはり柳宗悦の影響だと思います。

ソト 契約書断簡 フランス 18世紀

坂田さんのパリの買いつけに同行したとき、「道具はありふれているけれど、美はありふれていない」ことに気づきました。坂田さんの眼にかなうものはごく稀だったからです。

ウチ 絞り布 昭和時代

柳宗悦も坂田さんも、かつて道具だった物を、道具としてではなく、物体として鑑賞する人でした。みる人であり、つくる人でも、つかう人でもありません(よって、ふたりは利休に似ていないと思います)。

ソト 聖書断簡 エチオピア 19世紀

美(美術)は工芸の「ソト」にあったはずです。それを「ウチ」のものとして語ったのが柳宗悦と坂田さんでした。その影響下、民芸派と生活工芸派の作家たちは、工芸と美の両立をめざします。工芸にとって美とはなにか、それはなぜ必要なのか。柳や坂田さんの仕事を考えることは、そうした問いを問うことでもあると思います。


菅野康晴 - 『工芸青花』編集長

1968年栃木県生れ。早稲田大学第一文学部卒業後、1993年新潮社入社。
『芸術新潮』及び「とんぼの本」シリーズの編集部に在籍後、2014年「青花の会」を始める。
担当した本に、川瀬敏郎『一日一花』、坂田和實『ひとりよがりのものさし』、中村好文『意中の建築』、
金沢百枝・小澤実『イタリア古寺巡礼』、赤木明登・智子『うちの食器棚』、木村宗慎『一日一菓』、
三谷龍二+新潮社編『「生活工芸」の時代』、李鳳來『李朝を巡る心』など。