工芸のウチ.ソト

小林和人 - Roundabout / OUTBOUND

ウチ 土の作品 熊谷幸治(用途を前提としない工芸)

山梨県上野原市と神奈川県藤野市に拠点を構える土器作家の熊谷幸治さんは、人々の日常に土の要素を届けようと、
実用性のある器から用途を前提としない作品まで幅広く、土を素材とした物づくりに取り組んでいます。
道具も抽象的な造形物も等しく捉える彼にとって、工芸と美術の境は意識する程の事では無いのかもしれません。

ソト 金属製幾何形態「工業製品の余白と痕跡」

切りっ放しの余白と工業製品ならではのぴんとした緊張感に惹かれ、DIYショップの金属素材の売場に並ぶ様々な形とサイズから選んだ真鍮製の円柱。河原で石を拾う程には表情の個体差はないものの、愛でるうちに角が取れ、徐々に痕跡が残り、100年後には手で作られた物に少しだけ近い佇まいになっているかもしれません。

ウチ 竹籠 山崎大造

「工芸以前からの工芸」
高知県南国市にて竹製品づくりに励む山崎大造さんは、自らの目で竹を見極めて切り出し、山から工房まで担ぎ、洗って捌き、籠や笊に編み上げるまでの行程を全て人力で賄っています。出会った素材をどう活かすかという姿勢で作られる彼の笊籠は、工芸という概念が登場する以前から人間が続けてきた物づくりを思わせます。

ソト パンチングストレーナー 柳宗理「手から始まる工業製品」

ひとつの製品を設計する際、自ら石膏型を削り、手で確かめながら最適な形を探すという極めて工芸的な手法を採用していた事で知られる柳宗理。氏のデザインには手から生まれた線ならではの温度を感じますが、製造過程の手の介在度合いからすれば、その製品自体は工芸というより工業製品として捉えるのが自然だと考えます。

ウチ ピッチャー 一柳京子「機械技術と工芸」

一柳京子さんは、都内の住宅地の工房にて電動轆轤と電気窯といった設備を取り入れた作陶を続けています。彼女が作り出す優美な曲線は、修練によって獲得された技能と彼女自身の感性のどちらが欠けても生まれ得ない物であり、そういった身体性と機械技術の共存が、自分が工芸に興味を持つ契機となった事は間違いありません。

ソト ドイツ ポリプロピレン製計量カップ「工業製品と反復の美」

融解したポリプロピレンを型に充填して成形されるVITLAB社の軽量カップには、どこか禁欲的な潔さを覚え、店の初期より扱い続けています。同一規格の工業製品が整然と並ぶ様には、ある種の反復の美を感じます。その事は、自分が工芸と別階層で機械生産の品を紹介し続ける動機の一つとなっているのかもしれません。


小林和人

1999年、国内外の生活用品を扱う店 Roundabout(ラウンダバウト)を東京 吉祥寺にて始める(2016年に代々木上原に移転)。
2008年には、やや非日常に振れた品々を展開する場所 OUTBOUND(アウトバウンド)を開始。
スタイリングや店舗プロデュース(Archivando/渋谷、日常設計研究室/台北) 、内装ディレクション(RICORDO/大阪、14g/徳島)、
執筆等も手掛ける。著書に『あたらしい日用品』(マイナビ)がある。